第31回介護福祉士国家試験（平成30年度） 問題１
Ａさん（82歳，女性，要介護2）は，夫を7年前に看取り，その後は一人暮らしをしている。夜中にトイレに行った時に転倒し，大腿骨頸部を骨折（fracture）して3か月入院した。自宅に手すりをつけ，段差をなくす住宅改修をした後，退院した。何かにつかまれば，いすからの立ち上がりや歩行ができる。人と関わるのは苦手なため自宅での生活が中心である。遠方に一人息子が住んでおり，月に1度は様子を見に帰ってくる。週3回，訪問介護（ホームヘルプサービス）の買物代行や部屋の掃除などの生活援助を利用している。Ａさんはできるだけ自分のことは自分で行い，このまま自宅での生活を継続したいと希望している。訪問介護員（ホームヘルパー）が訪問したときに，Ａさんは一人暮らしを続けることが不安であると告げた。
Ａさんに対する訪問介護員（ホームヘルパー）の応答として，最も適切なものを1つ選びなさい。
1 「訪問介護（ホームヘルプサービス）を毎日利用したらどうですか」
2 「一人暮らしは大変なので息子さんと同居したらどうですか」
3 「また転ぶかもしれないと思っているのですか」
4 「グループホームに入居することを考えたらどうですか」
5 「手すりをつけたし，段差もなくしたので転びませんよ」
正解：３
最初の問題って結構パンチの効いた問題が出ることが多くて、突然の難問で目の前真っ白！という年も結構あります。
今回はそれに比べるとおとなしい感じですね。
ただ、いきなり長文の事例かよ、ということでペースを乱されてしまう方もいたかもしれないですね。
ホームヘルパーという立場からどのようなかかわり方が望ましいかを焦点にあてた問題です。
ポイントは、本人が自宅での生活の継続を希望しているということです。
介護福祉士の国家試験で、在宅で生活したいと本人が希望している状況で、施設やグループホーム入所をいきなり提案するような選択肢が正解になることはないと思った方がいいです。問題文を読んでいて、「あ、施設はないな」と思ったらさっさと選択肢を×で消してしまってオッケーです。
しかも認知症でもないのにグループホームって。
あと、同居を勧めるというのも同様に選択肢から除外できますね。
自分でできることは自分でしたいということなので、ホームヘルパーの回数を毎日にすることは効果的な提案に思えても本人の自立の妨げになる部分もありますので、ここは介護保険の趣旨である自立支援から考えれば×ですね。
それ以前に、これを直接ホームヘルパーから本人に投げかけること自体望ましいことではないですね。ホームヘルパーであれば、サービス提供責任者に報告して、そこからケアマネジャーと相談するなり、サービス担当者会議で話し合うなりするべきですので、介護保険の仕組みから外れた１，２，４のような提案はそもそも正解としてはありえないと思っていいでしょう。
「転びませんよ」といっても、転ぶときは転びます。転ぼうと思って転んでいる人はいませんから。励ますような声掛けで一見いいかもしれませんが、ちょっと無責任な発言ですよね。
で、正解は３なのですが、これちょっと個人的には曲者かなと思っています。
「また転ぶかもしれないと思っているのですか」っていう、文字にしてみるとちょっと言葉が強いように感じませんか？
本人の気持ちを確認するための問いかけなんですけれど、「思っているのですか」という言葉が「思っているんじゃないでしょうね」「思っていたらだめでしょう」みたいな高圧的な言い方の言葉だったら、これはアウトです。言葉のイントネーションひとつで、これ不正解にも思えます。たぶん、この問題を間違えた人はそれに引っかかってしまった人なんじゃないかと思いますが、どうでしょう。
第31回介護福祉士国家試験（平成30年度） 問題2
『夜と霧』や『死と愛』の著作があるフランクル（Frankl, V.）が提唱した価値の説明として，適切なものを1つ選びなさい。
1 公民権運動により差別を解消すること。
2 生命が制限される状況において，いかなる態度をとるかということ。
3 最低生活水準を保障すること。
4 ライフサイクル（life cycle）を通じたノーマルな発達的経験をすること。
5 アパルトヘイト（人種隔離政策）を撤廃すること。
正解：２
フランクルはヴィクトール・エミール・フランクル。オーストリアの心理学者です。
これは難しいですよね。知らなきゃできないし、あきらめて次の問題に入ってもいいと思います。だいたい序盤でこういう難問出てきますので、知らなければいくら考えても出てこない知識を問う問題はあきらめも肝心ですよ。
ちなみに、フランクルはナチスの収容所での体験を書いた著書「夜と霧」で有名な心理学者です。「どの人生にも意味と価値がある」と説きました。
人間の尊厳と自立のポイント
この分野、結構難問がいきなり出ます。
例年のパターンでは、一問目でいきなり難問が飛び出します。主に、社会福祉の推進に寄与した人名などの介護の実践では身につかない知識を問う問題です。
いきなり一問目からの難問にペースを乱される受験者が後を絶ちません。
今回は二問目に難しい問題を持ってきていました。
はっきりいって、二問のうち両方を正解するのはかなり至難の業だと思ってください。
この分野加点が取れないと、全体の合格基準点をクリアしていても全分野での加点がないと不合格なんじゃ・・・と焦る人もいるかもしれませんが、人間のの尊厳と自立の分野はそのあとに続く人間関係とコミュニケーションの分野とセットになっていて、二つの分野を合わせて一問正解があればいいのです。
なので、この分野で一番大事なことは、難問にペースを惑わされずに、スルーする感覚で次の問題、次の分野の問題に向かうということでしょう。
